幻の君 2

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僕は養護教員をやっている。

初めて京子に出会ったのも保健室だった。

「先生、目が痛いんです」

そう言って保健室にやってきた京子の目はとても澄んだ茶色をしていて、綺麗だった。

よろけた時に目を壁にぶつけてしまったようだったので、眼科に行くことを勧めた。

ただ、それだけだったはずが、それから何度か京子は保健室にやってきて、休んだり僕と話をするようになっていた。

「わたしね、身長が高いことが悩みなの」

何度目かの会話で京子が言った。

確かに他の女子から比べると少し身長は高いように見えたが僕自身が180cm近くあるので、そこまで大きくも見えない。

ただ、女の子としては、小さな女の子が可愛くて男の子に印象が良いという都市伝説を信じているのだろう。

僕は京子の向かいに座り、笑った。

ぎこちなくなかったか正直不安だったけれど、京子はまっすぐ僕を見ていた。

今思い返せば、あの目を見てから、僕は京子が好きだったのかもしれないと思う。

「僕は男だから山口も他の子もみんな小さいよ」

「でも、それは先生の背が高いからでしょう?」

「男は、別に女性の身長なんて気にしないよ。山口は、男の身長が低いと嫌かい?」

「そんなことはないけど…。別に異性に見られるとかそういうことを気にしているんじゃないの。背の低い子って可愛いし、服も色々着られるし…。なんか、羨ましいなって思って」

「山口は綺麗だよ」

僕は不意に口から出た言葉に困惑し、京子が不快に思っていないかを心配した。

ただでさえ男の養護教員というのはあまり評判がよくないからだ。

けど、京子はにこやかに笑って「先生ありがとう」と言って保健室から出て行った。

ああ、好きだと思った。

京子の澄んだ目、綺麗な笑顔、綺麗な心。

僕に持っていない全てを京子は持っていると思った。

だけど、京子に手出しをしてはいけないと思っていた。

だけど、京子に近づきたいと思った。

それはもう、本能に近い。

結局僕らは、秘密に交際することになった。

毎日僕は京子を自宅まで送って、夜は電話で話す。

その繰り返し。

僕は決めていた。

「京子が卒業するまで、手出しはしない。ただ、好きな気持ちはどうしようもないから、付き合って欲しい。彼女になって欲しい」

告白をした時、そう言った。

この約束だけは絶対に守ろうと思い、キスもしてないし手も繋いでいなかった。

京子はいつも笑って僕の話を聞いてくれた。

京子の話もぽつりぽつりと教えてくれた。

元々京子は少し引っ込み思案で自分を主張できないから、僕と一緒にいることによって自信をつけてほしいって思っていた。

なのに、僕の前から消えるなんて…。

そうして、京子のことを考えていた僕の意識は、保健室に響くノック音で現実に戻ってくる。

「ああ、入って大丈夫だよ」

声をかけるとゆっくりとドアが開き、入ってきた女生徒を見て、僕は気を失いそうになっていた。

京子がいた。

あの日のままの京子が目の前にいる。

ぽかんとしている僕を見て京子は困った顔をしながら言った。

「先生、目が痛いんです」